「新しい星」の書評にて選考委員の島本理生氏がこう評した。
その一穂ミチとは、静かな筆致で人間の内面を鮮やかに描き出す、新進気鋭の小説家である。
一穂ミチの小説には、一見よくある日常風景が描かれているように見える。だが、その文章には、静かに渦巻く感情や、登場人物が抱える心の闇が、あざやかに浮かび上がってくる。
たとえば、第165回芥川賞を受賞した短編小説『この世の喜び』では、母と娘の葛藤が描かれている。
娘の「私」は、母と折り合いが悪く、疎遠な関係を続けている。しかし、ある日突然母が倒れ、入院することになる。
病院で母を見守るうちに、「私」は母の過去を知り、母に対する気持ちが揺らぎ始める。
「どうして私を生んだの?」
これは、「私」が母に投げかける切実な問いである。この問いが、母と娘の深い溝を浮き彫りにする。
一穂ミチの小説には、こうした静かな問いかけが数多く登場する。人間関係の機微や、心の内側に潜む闇を、あざやかに切り取る。
彼女の小説は、読者に問いかけ、自分自身の内面を見つめ直すきっかけを与えてくれる。
一穂ミチの小説がもたらすのは、単なる読了感ではなく、静かな感動と深い思索である。それは、人々の心を揺さぶり、いつまでも記憶に残る文学体験となるだろう。
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