四月になれば彼女は




四月といえば、桜の季節ですね。花見に繰り出す人々で賑わい、街中がピンク色に染まります。そんな四月になると、毎年思い出す人がいます。それは、もう亡くなってしまった私の祖母です。

祖母は、私が物心ついたときにはもうすでに高齢でした。白髪に皺が刻まれ、背中は少し曲がっていましたが、いつも笑顔で優しく私たちを見守ってくれました。祖母の家には、よく遊びに行っていました。古いアルバムをめくりながら、戦争中のお話や、若かりし頃の写真を見せてくれるのが大好きでした。

ある日、祖母が「四月になればね、桜の花が開くんだよ」と教えてくれました。その次の日、私は学校から帰るとすぐにおばあちゃんの家に行き、庭の桜の木を見上げました。すると、まだ枝には何もありませんでした。少しがっかりして祖母に「今年は桜は咲かないの?」と聞くと、祖母は「もうちょっと待ちなさいよ。四月になったらきっと咲くよ」と笑って答えてくれました。

それから数日後、学校から帰ると、おばあちゃんの家の庭が一面のピンク色に染まっていました。桜の木は満開で、辺りには甘い香りが漂っていました。私は大喜びで祖母に「おばあちゃん、桜が咲いたよ!」と叫びました。祖母は私の頭を撫でて「よかったねえ」と優しい声で言ってくれました。

あれから何年も経ち、祖母は亡くなりました。今でも、四月になると桜を見ると、おばあちゃんを思い出します。桜の花びらが風に舞うのを見ると、おばあちゃんが「春が来たよ」と私に語りかけてくれているような気がします。

おばあちゃんが教えてくれた、桜の咲く四月。あの景色は、私の心の中に今も鮮やかに残っています。おばあちゃん、ありがとう。ずっと忘れません。