歴史の教科書で習った元寇。鎌倉時代末期に、モンゴル軍が二度も日本に攻めてきたあの戦いですね。この戦いを舞台にした小説が「逃げ上手の若君」です。
主人公は、鎌倉幕府第8代執権・北条時宗の次男、北条時輔。幼い頃に元寇で父を失った時輔は、命からがら逃げ延び、その後は各地を転々としながら生きてきました。この小説は、そんな時輔が元寇で散り散りになった仲間を探す旅路を描いています。
時輔は、単なる逃げ上手ではありません。父から受け継いだ武術の才能と冷静な判断力で、幾度となく窮地を脱しています。また、仲間思いで情に厚く、出会った人々との交流も物語に彩りを添えています。
時輔は、戦で父を失ったトラウマから、戦いを恐れるようになっています。しかし、旅の中で仲間と出会い、助け合ううちに、徐々に変わっていきます。自分の弱さと向き合い、強くならなければならないという決意が描かれています。
時輔の旅には、さまざまな登場人物が登場します。食えない浪人、謎めいた僧侶、腕利きの女忍など、個性豊かなキャラクターが物語を盛り上げます。彼らの背景や思惑が絡み合い、物語に深みを与えています。
小説の背景は、元寇という激動の時代です。朝廷と幕府の対立、モンゴル軍の脅威など、当時の社会情勢がリアルに描かれています。歴史好きの人も楽しめる内容です。
「逃げ上手の若君」の魅力は、その人間味あふれるキャラクターと、手に汗握るストーリーにあります。時輔をはじめとする登場人物たちに感情移入しながら、歴史の教科書では知ることのできない元寇の時代を体験できるでしょう。
最後に、この小説の作者である甲斐谷忍さんの言葉をご紹介します。「戦は、決してカッコイイものではない。戦で犠牲になるのは、名もなき人々だ。」
「逃げ上手の若君」は、そんな戦争の悲惨さを教えてくれるとともに、それでもなお人間が強く生きようとする姿を描いた、感動的な作品です。